小林雄次著、筧 昌也原案『ロス:タイム:ライフ』を読んだ。
この作品は、テレビドラマで放映されたものを小説化したもので、テレビで放送されたものの一部と、この本のための書き下ろしが併せて収録されている。
死を迎えた人に、人生の中で空費された時間を清算するために与えられるロスタイム。ドラマでは、大体3時間くらいから、例外で12年。小説では、1時間半から12時間までと、かなりばらつきがあるが、大体3時間から5時間くらいが平均的なようである。
いきなりわけもわからない状態で、サッカーの審判団のような死神にロスタイムを告げられ、その時間を有意義に使うべく促される。
ドラマではヌッ君(温水洋一)が全編に登場していた(といいつ、私はまだ最後のヌッ君特別編2編を見ていないのだが)が、小説の方は、審判団以外、全編に登場する人物はない。それでも全編がしっくりと纏まるようにできている。
ドラマはサッカー風の解説の面白さで、比較的軽い感じだったが、小説は、泣けた。特にドラマで友近が演じたスキヤキ編(小説では「最後の晩餐」)と、小説書き下ろしで最後に登場する「最後の一夜」には、涙が止まらなかった。
どことなくおかしさを醸し出す審判団と、ロスタイムという限られた時間に精一杯生きようとする主人公たちで作られる物語は、読後、上質なおとぎばなしを読んだ満足感を味わえた。
それにしてもたった数時間のロスタイム。私だったら何ができるだろうか。
試しにドラマのホームページで自分の現時点でのロスタイムを調べたら、23時間だった。約1日。もし本当にロスタイムを与えられたら、その時間で何をするか。考えてみるのも悪くないなと思った。
東野圭吾著『夜明けの街で』を読んだ。
この本は、マサノリが購入したのだが、彼がまだほとんど読まないうちに、私が読んでしまった(^^)
それにしても、この作品での東野圭吾は、メチャクチャ実感をこめて力説している。いままでの彼の作品でこれほど読者に対して直接的に力説している作品があっただろうか。それほど主人公の心理にリアリティがあり、実感がこもっているのだ。
内容は推理的要素があるので(2時間ドラマ向き)、詳しくは書かない方がいいと思うが、
不倫する奴なんて馬鹿だと思っていた。
という主人公がどんどん恋に追い込まれていく。
相手になる女性も、不倫はとんでもないと思ってる女性だ。
何しろ、派遣で入社したときの挨拶で
「夫としての役割を全うできる人でないといやです。ほかの女性に気持ちが向くような人は失格です」
と言ったくらいの人だ。
そんな2人がどうやって不倫の関係になっていくか。とにかくそうならないと話が進まないので、物語ではあの手この手で追い込んでいく。
まぁ、実際、人を好きになるというのは、いつのまにか心がつかまってしまうというようなものだろうし、奥田英朗の『マドンナ』のように、中年の既婚男性は案外日常的に心を掴まれいるのかもしれない。そこから先に進むかどうかは、双方にそこを飛び越える意志が必要だと思うが、それがないのに飛び越えさせる仕掛けは見事だ。
それにしてもこの本、私の枕元にあったものだから、てっきりマサノリが私に読ませようとしたのかと思って、「むむっ? これは何かのサイン?」などと気を回してしまったが、後で聞いたらまだ読んでないようだし、話の内容もよくわかっていないようだった。
かなり分厚いものだが、あっという間に読めてしまったので、これが最初だけ読んで積んどくになっているというのは、ひとまず安心していいということかしら(^O^)
そうそう。この作品では、サザンが効果的に使われていた。『秘密』でのユーミンもそうだったけど、実に見事だわ。
谷崎潤一郎著『磯田多佳女のこと』という本を読んだ。前の記事で書いた『谷崎潤一郎の京都を歩く』で興味が湧いたからだ。
実は、さきほどのガイドブックを読むまで、この本の存在は知っていたが、はっきり言ってあまり興味はなかった。磯田多佳という人自体を知らなかったからである。
この本が出たとき、結構大きな評判が立ったらしい。
谷崎の学生時代からの友人である辰野隆が書いた『舊友谷崎』という一文に
谷崎潤一郎の「磯田多佳女」に就いて一通り、批判が了つて、賛否が岐れたところであつた。いきなり『あなたはどう思ふ』といふ質問を受けたのである。あまり突然なので、考をまとめる暇もなく、僕は只ありのままに、『面白かった』と答へた。但しそれは僕自身が多佳女に一面識があり、嘗て彼女の姉の死に際して、紫陽花や見る見る変はる爪の色といふ名句さへ吐くほどの才女として、香ばしい噂を傅聞してもゐたから・・・且又、多佳女への手向けの一文を草したのが他ならぬ谷崎でもあつたから、僕には一段と興深く覚えたのだらう。然し多佳女を知らぬ一般の讀者には、或はそれほどの興味がないのではあるまいか、と答へたのであつた。
と書かれていることから窺えるが、まったくその通りである。
磯田多佳という人は、祇園のお茶屋である大友というところの女将をしていた人だそうだ。ただし、このお茶屋さんは、もともと彼女の母親が経営し、その長男の娘である賀壽さんという人が継いでいたそうである。ただ、この人があまり表に出るタイプでなかったため、自然この多佳さんが女将のような役割を演じていたのだそうだ。
本は、谷崎がお多佳さんの死の知らせを受けたところから一周忌の追善演藝会の様子で始まり、それから多佳さんの養子の又一郎氏からの聞書きの形を取って、彼女が亡くなるまでの話が、彼女の句や絵、それから彼女が書いた短編などを交えながら書き留められている。
引用されている彼女の短編には、彼女が敬愛する絵の師匠と一緒に陶器の店を開いていた時期があるのだが、その師匠と死に別れた後、その師匠が絵付けをした陶器を大切にしまい、もう売らないことにしたことから起こった事件が描かれている。ここには後に深い間柄になる岡本橘仙氏も登場し、その粋なやりとりが興味深い。
「風流ぬす人」
味わい深い言葉である。
『磯田多佳女のこと』の本文は、岡本橘仙氏の正妻が亡くなり、その20日後に橘仙氏が亡くなり、その2ヵ月後に多佳さんが亡くなったことが記され、最後に谷崎による手向けの二首で〆られる。手向けの本として、心に残る終わり方である。
しら河の流れのうへに枕せし
人もすみかもあとなかりけり
あぢさゐの花に心を残しけん
人のゆくへもしら川の水
苗場のレポートはもう少しお休みして(^^;、つい最近読んだ『谷崎潤一郎の京都を歩く』というガイドブックについて書きたいと思う。
このガイドブックは、淡交社というところから出版されているのだが、実に内容が濃い。2005年の発行なので、ガイドブックとしては少し時間が経っているが、その内容の濃さから、資料としての価値がある。
まず、谷崎が初めて京都に来たときに書いた『朱雀日記』の話から始まる。それによると、初めて食べた京料理の印象は、東京人の谷崎にとって、あまりおいしいという感じではなかったらしい。確かに私なども小学校、中学校のときに京都へ修学旅行に行って、お味噌汁に驚いた経験があるので、当時の谷崎の驚きはいかばかりだっただろう。
それから、後に追悼文を書くことになる磯田多佳という人との出会いが書かれる。
この人は、誰にでも物怖じしない女性だったようで、夏目漱石などにも軽口を叩ける人だったそうだ。当時京都にいながら、デビューしたての谷崎の作品を読んでいたというのはさすが文芸芸妓と呼ばれた人というところだろう。
谷崎が彼女のことを書いた『磯田多佳女のこと』は、先日神保町で入手した。
これについて詳しくは次の記事で書かせていただくが、和紙の袋とじの本文がハードカバーで綴じられたその本は、谷崎の故人に対する思い入れが感じられて、読んでいてとても興味深い。やや右下がりの独特な書体、本文を四分空きで組んで、読点をその四分空きのところに押し込める独特な組み方が、なぜか読みやすくて美しい。
印刷方法も興味深い。ところどころに緑や赤が使われているのだが、それがまるで水彩絵の具を使ったように見えるし、表紙のお茶碗の絵に使われている藍色は、まるで釉薬で書いたようだ。残念ながら初版ではなく、箱もないのだが、この本は宝物になりそうだ。
なお、『磯田多佳女のこと』の表紙と箱の写真は、このガイドブックにも掲載されている。
それから、このガイドブックで磯田多佳さんについての資料として使われているもう1つの本である、杉田博明著『祇園の女―文芸芸妓磯田多佳』も、近く入手して読みたいと思う。
ところで、谷崎と京都と言えば、何と言っても『夢の浮橋』の舞台となった「後の潺湲亭」だろう。糺の森の東隣にあるその家については、とても多くのページ数が割かれている。転居癖のある谷崎が生涯で一番気に入っていた家で、健康の問題がなければ決して人に譲ることはなかったと思われる家なので、現在石村亭と名を変えているその家の内外の写真はとても興味深い。
このガイドブックには、谷崎が行ったであろう名所や谷崎贔屓のお店の写真、それからそれらの場所に印のついた地図も掲載されているので、今度京都に行くことがあったら、ぜったい持って行って、それらの場所を確認したいと思う。
苗場のレポートは一休みして(って、間延びもいいところだけど(^^;)、3月9日(これまた書くのが遅いが(^^;)に、渋谷のタワーレコードでのユーミン展に行ってきたので、そのレポートを書きたい。
このイベントは、シャングリラIIIのライブDVD/Blu-rayDiscが発売されたのを記念して、シャングリラIIIの衣装と映像、パネルが展示されたものだ。
仕事の関係で、果たして行けるかどうかというところだったが、何とか最終日に滑り込めた。
当日、マサノリは仕事だったので、私一人で湘南新宿ラインに乗って、渋谷まで直行。腹ごしらえ(^^; をしてから、いざ、タワーレコードへ。
入り口では、「ようこそ輝く時間へ」の衣装(写真)がお出迎え。会場へは、ドルフィンが道案内をしてくれる。
会場入り口にはユーミンの曲を自動演奏しているグランドピアノ(シャングリラIIIのライブDVD/Blu-rayDiscには、このピアノとYUMING専用カートリッジのセットの抽選応募券が入っている)が置いてあり、場内には、シャングリラIIIの映像(WOWOWのもの?)が上映され(「時のないホテルの衣装の後ろ」)、シャングリラIIIでユーミンが着た衣装や、そのデザイン画のパネルが展示されていた。
映像の前でよく見るお顔と出会い(^^) 2人でいったん外に出た後、1名増えて3人で再び入場。夕方に入場したら、昼間にはなかったスモークが盛んに焚かれていた。
そこでまた1名増えて、J-POP CAFEへユーミンカクテルを飲みに。
ここのユーミンカクテルは、苗場とは別のものだったが、お店がリニューアルしたばかりということで、いやぁ、待たされた(^^; でも、ここでも何人かのユーミンファンの知り合いに出会って、一緒に楽しい時間を過ごさせていただいた。
仕事から帰ったであろうマサノリが気になり、早めに失礼させていただいたが、とっても楽しい1日になった。