25日のステージを見たあと、シャトレーヌに行った。さすがにステージ直後だと混んでいる。私たちは、いかにも臨時に作られたような席に案内された。途中で席が空いたので、移りますかと聞かれたが、飲んですぐ出るつもりだったので、そのまま臨時席でこの写真を撮った。左が「SURF&SNOW」で、右が「Northern Lights」。「SURF&SNOW」のシャーベット状になったココナッツミルクのシャリシャリ感と、「Northern Lights」のシュワシュワ感。どちらもとてもおいしかった。
シャトレーヌに行くなら昼間をお勧めする。というのは、何年か前に、昼間の3時頃に行って、マサノリと2人で外を見ながらゆっくりしていたところ、入り口から聞き覚えのある声が…。ユーミン一行が雑誌か何かの取材でシャトレーヌに来たのだ。そのことに気づいた瞬間から、私たちは固まってしまったが、とても嬉しい時間だった。
昼間から飲むのは、私のようにすぐ顔に出る人にとってはかなりの冒険なのだが、次回は昼間にしよっと。
22日、23日とステージを見て、24日にいったん帰宅したが、そのときに猿ヶ京の岡村うどん店に寄った。ガイドブックに載っている店なので、どんなものかと思い、入ってみた。
写真はそのとき注文したものだ。店の人の口ぶりでは暖かいものの方がお勧めのようだったが、うちは2人とも冷たい方が好みなので、天もりにした。味はう~ん、まあまあだったかな。特におつゆが私には物足りなかった。
漬物は、奥にサラダバーならぬ漬物バーがあり、たくあんや梅干などが置いてあって、そこから自由に持ってくるようになっている。「残した場合は料金をいただきます」という貼紙がついていた。
それにしてもこの店、ちょっとユニーク。入り口を入ると左側に売り物の漬物の上になぜか源氏物語が模造紙に書かれている。写真はその一部だ。さらに座敷の方を見たら漢文が…。このお店のご主人は古典文学に造詣が深いのかしら。
今回の苗場は、リクエストコーナーが、リクエスト&プレゼントコーナーになったのは皆さんご存知のとおりだ。初めての試みなので、ユーミンもお客もお互いに慣れないところがあったりして面白かった。
今回は整理番号での抽選だったため、いろいろ楽しいハプニングが起こった。
たとえば、22日には子供が当たった。とってもシャイなかわいい子で、リクエストはお母さんに聞かないとわからないとのことで、お母さんが出てきたのだが、3曲ぐらいリクエストして、そのどれもがブーイング(リクエストしなおすたびに、それは後で…(^^;という曲になってしまう)のため、今年初の「ごめんなさい」になった。子供は男の子だったが、本当にシャイで、ユーミンが促してもついに客席の方は向かなかった。とってもほほえましい親子だった。
23日には、ブレスレットのプレゼントで、スカのプレゼントでないにもかかわらずユーミンがメノウクリームを出しそうになってティナさんはじめコーラスの3人があわてたり、その当選者がプレゼントを受け取った後にリクエストしそうになって断られるという、初めての試みならではの場面が展開した。
なお、23日に一度『DANG DANG』がリクエストされたのだが、なぜかユーミンがブーイングがあったと言って、『~ノーサイド・夏~空耳のホイッスル』に変わったのだが、27日には結局歌われたようだ。『~ノーサイド・夏~空耳のホイッスル』も好きな曲なので、良かったけど。
最後に余談だが、このコーナーの今井君の自己紹介の変遷が面白かった。初日はマーキン、22日はマッシュ(言ってから大テレ)、23日はマサキン、その後はマーキンに戻った。
「初心忘るべからず」という言葉がある。実はこの言葉、花伝書の第7の、
一、能に十體を心得べき事。
というところにに出てくるが、一般に思うイメージとは少し異なる。
十體(体)というのは物まねのあらゆる風體のことで、同じ事を一廻り二廻りずつ演じたとしても、その一通りの間隔が長いため、十體を一時期に演じることができる為手は珍しいだろう。つまり、幼い時分の態、手盛りの振舞い、年寄りての風體などその時々の自分と自分にあった風體を、一時期に持っていてそれを表現できる位に至ることだが、この位に至った為手は、知る限り亡父観阿弥ぐらいなものだと花伝書では述べている。
だから、初心の頃からの芸能の品々を忘れず、その時々、用途に従って取り出すようにすべしと書かれている。
ここで世阿弥は、観阿弥がどれほど優れた芸能をしたかという例で、自然居士の物まねのときは、16、7の人間が演じているように見えたと、将義満が激賞したことを挙げている。
今回の苗場のステージでたユーミンが登場したとき、まるでまだ結婚する前の女性のような美しさで、肌までつやつやしていた。そして80年代に移り、サブリナパンツを穿いて、上はカーディガンを袖を通さずに着るスタイル(松方がけと言うらしい)になると若奥様のようになり、それからだんだん髪型を現在の形に変えていった。今回の苗場は花伝書を実践するステージだったのかもしれない。
ただ、サブリナバンツと松方がけの組み合わせは、私には若奥様に見えたのだが、あえて松方がけというところから、もしかしたらOLやJJがコンセプトだったのだろうか。ファッションに疎い私には今1つつかめないので、誰か教えて。
サブリナパンツの「麗しのサブリナ」という映画(私は見てないのだけど)は1954年の作品だったことを、今日このお話を書くために調べてみて初めて知った。
ネットパーティーのインターネットラジオで、ユーミンがゲストのビビル大木に薦めていた本、『風姿花伝(花伝書)』を読んだ。ユーミンはこのとき、すべての芸事をする人は読んでおくべき本だと言っていた。岩波文庫で120ページほどのうすい本だが、日本史に出てくるような古典なので、さすがに読むのは大変だった。
この本は、室町時代、世阿弥が足利将軍の庇護のもと全盛期を誇っていた頃に、亡き父観阿弥の教えを後継者のために家訓として遺さんとして書き記したもので、その中身は第1から第7まである。ただ、この書物自体もともと秘伝なのだが、第6と第7はその中でもさらに秘伝のもののため、第5までとは性格を少し異にする。
第1は、年来稽古條々といって、年齢ごとの教え方、修行の仕方、心の持ち方を、
第2は物学條々といって、役柄(ものまねと言う)についての留意点、つまり、女性や老人を演じるときはどのあたりを気をつけるか、また面をつけずに演じるときや物狂といって感情に支配されたり、憑き物に憑かれた人間などを演じるときの心構えなど、1つ1つ挙げて説明している。
第3は問答條々といういわゆるQ&A、
第4は神儀云といって申楽の歴史を紐解いている。この条では天下に少し障りがあったときに上宮太子(聖徳太子)が神代・仏在所の吉例に任せて、66番の物まねをさせて天下を治めたとき、末代のために神楽からへんを取ってつくりだけを残し申楽と名づけたと書かれている。意外なところで聖徳太子が出てきて驚いた。
その後は、第5の奥儀讃嘆云、第6の花修云、第7の別紙口伝へと続く。
各條とも、世阿弥の熱意がぎっしりと詰まっおり、この書を受け継いでいる人たちはまさに座右の書として常にここに立ち返っては日々精進しているのだろう。たぶん、読むたびに、何か1つ極めるたびに、また新たな発見があるのだろう。
そのように凝縮された本だが、その中で、あえて第1のところについて書いてみたい。
能は7歳で始め、12、3の頃には子供ならではの花が現れる。17、8では声変わりのため第一の花が消え、本人が傷つき、腐ってしまうこともある。
24、5は声も外見も定まり、年盛りに向かう初めで、上手だと人目にも立ちはじめ、時には名人と言われた人をも打ち負かしたように見えることがあるが、勘違いして横道にそれないようにする必要がある。
34、5には、盛りを向かえ、これまでの注意点をしっかり守っていれば、きっと天下に許され、名望も得ることができるだろうが、もしそうでもなかったら、未だに誠の花を極めていないと知るべしと書かれている。なお、この頃は、今までの経過の意義が自覚されてきて、行く先の手立てをも悟る時期とされている。
そして44、5。ここに来て、世阿弥の筆は力が入る。
この頃にはどうしようもない自然の推移で、身の花も外目の花も失う時期なので、よき脇の為手を持つべしと書かれている。よほどの優れた美男ならいざ知らず、お面を使わない申楽は、年取ってからは見られないものだから、この頃からは脇の為手に花を持たせて、くれぐれもあまり体を動かすような能はしないようにするべきだと書かれている。
「何としても外目に花なし。」
強烈だ。
でも、この頃までなくならない花こそ、誠の花だとも書かれている。
50有余では、もう「せぬ」というしか手立てはないと書かれている。それでも、真実の名人ならば、演じられる曲はなくなってしまっても、花は残るだろうと書かれ、亡き父がその亡くなる月に演じたときの例を挙げて、心構えを説いている。
世阿弥はこの後2度にわたって芸能論を書いているそうだが、この風姿花伝は何分にも全盛期の30代。その後の芸論も読んでみたいところだ。
さて、それにしても逗子はこれからどうなるのだろう。ファン心理としては少しでも長く続けてほしいが、考えてみれば、逗子のステージは時代の花とユーミンの年齢の花が一致したことによって作られた大輪の花だとも言える。時代は変わり、ネットパーティーのラジオで正隆さんも言われていたが、逗子マリーナ自体も変化を始めた今、逗子という器から、別の世界に旅立つ時期なのかもしれない。
最終日のチャットで正隆さんが企画を募集したとき、ユーミンが言った一言は、
「それによってこれからの私の歌手生命が決まるんだからね」
だった。